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監修:冨澤敏夫(柔道整復師)

慢性痛で起こっている組織病態は、組織の状態

慢性痛は、組織の損傷や炎症が長期化する状態です。この記事では、慢性痛で起こる組織病態について、炎症性の放出物質の変化、神経変化、血管変化、組織組成の変化などの観点から詳しく解説します。痛覚過敏やモヤモヤ血管との関係、炎症細胞と炎症性サイトカインの相互作用、浮腫や痛覚過敏のメカニズム、損傷組織でこれらの変化が起こる理由、そしてこれらの変化を防ぐための対策についても説明します。

 

 

1.慢性痛と組織病態の関係

慢性痛は、組織の損傷や炎症が長期化する状態のことです。慢性痛の場合、以下のような組織病態が考えられます。

  • 1-1.炎症性の放出物質の変化:
    • 慢性的な炎症により、脂肪の組織内に炎症細胞(リンパ球、マクロファージなど)の浸潤が起こる。
    • 炎症性サイトカイン(TNF-α、IL-1βなど)の産生が増加し、痛覚過敏を引き起こす。
  • 1-2.神経変化:
    • 末梢神経の過敏化、神経線維の増加が見られます。
    • 痛みを伝える神経伝達物質(サブスタンスP、CGRPなど)の放出が増加する。
    • 神経線維周囲の血管新生(新しい血管の形成)が起こる。これが「モヤモヤ血管」と呼ばれるものです。
  • 1-3.血管変化:
    • 異常な血管新生により、血管の透過性が亢進し、浮腫(むくみ)が生じます。
    • 血管周囲に神経線維が分布し、痛覚過敏に関与します。
  • 1-4.組織組成の変化:
    • 組織の腫脹、線維化(組織が硬くなること)。

 

2.痛覚過敏とモヤモヤ血管の関係

この関係で起こることは、異常な血管新生により、細く脆弱な血管が多数形成された状態で、これらの血管は、神経線維とともに分布し、痛みの伝達に関与します。通常では痛みを感じない程度の刺激でも痛みを感じる状態です。

2-1.血管が増える=神経線維も増える?

必ずしも「血管が増える=神経線維も増える」という単純な認識で良いとは言えません。血管新生と神経新生(神経線維の増加)は、しばしば関連して起こりますが、それぞれ独立したメカニズムによっても制御されています。ただし、慢性痛や炎症の状況下においては、この二つが密接に関連し、互いに促進し合うことが多いのは事実です。

血管新生と神経新生の関連性

共通の促進因子

炎症性サイトカイン(例:TNF-α、IL-1β)や成長因子(例:VEGF、NGF)は、血管新生と神経新生の両方を促進する可能性があります。損傷組織ではこれらの因子が放出され、血管と神経の両方の成長を促すことがあります。

神経による血管新生の誘導

神経線維、特に知覚神経は、血管内皮増殖因子(VEGF)などの血管新生を促進する物質を放出することが知られています。慢性的な炎症や神経の興奮状態では、これらの物質の放出が増加し、血管新生を促す可能性があります。これが「モヤモヤ血管」形成の一因と考えられています。

血管による神経のサポート

新生血管は、神経線維に栄養や酸素を供給し、その生存と成長をサポートします。また、血管周囲には神経線維が分布しやすく、血管新生は神経線維の分布を促進する可能性があります。ただし、以下の点に注意が必要です。

独立した制御機構

血管新生と神経新生は、それぞれ異なる細胞や分子によって複雑に制御されています。一方の増加が、必ずしも他方の増加を直接的に引き起こすわけではありません。

時間的・空間的なずれ

血管新生と神経新生が起こるタイミングや場所が完全に一致するとは限りません。

病態による違い

疾患や組織の状態によって、血管新生と神経新生の関連性は異なります。例えば、がん組織では血管新生が活発ですが、必ずしも神経新生が同じように起こるとは限りません。

2-2.慢性痛と血管新生と神経新生の関連性

慢性痛の病態においては、血管新生と神経新生が以下のように悪循環を形成することが示唆されています。

1.組織損傷・炎症: 組織が損傷し炎症が起こると、VEGFやNGFなどの因子が放出されます。

2.血管新生と神経新生の促進: これらの因子は、血管内皮細胞や神経細胞に作用し、血管と神経線維の成長を促します。

3.痛覚過敏と疼痛の慢性化: 新生血管は透過性が高く、浮腫や炎症性物質の漏出を引き起こし、周囲の神経線維を刺激して痛覚過敏を悪化させます。また、増加した神経線維自体も痛みの伝達に関与し、慢性痛を維持する要因となります。

まとめ

「血管が増える=神経線維も増える」という単純な認識は正確ではありませんが、特に慢性痛や炎症の状況下においては、血管新生と神経新生は密接に関連し、互いに促進し合うことが多いと考えられます。血管新生を抑制する治療が、神経新生や痛みの軽減に繋がる可能性もあり痛みの軽減を促すとも言われています。結論は、「慢性的な炎症や組織損傷の状況下では、血管新生を促進する因子と神経新生を促進する因子が共通している場合が多く、また、新生血管が神経線維の成長や機能をサポートするため、血管が増える環境は神経線維も増えやすい」と理解するのが良いでしょう。

 

3.炎症細胞(リンパ球、マクロファージなど)の浸潤と炎症性サイトカイン(TNF-α、IL-1βなど)の産生が増加の相互関係?

A:慢性的な炎症による炎症細胞の浸潤

  • 組織が損傷すると、体は修復プロセスを開始します。このプロセスにおいて、免疫細胞(リンパ球、マクロファージなど)が損傷部位に集まり、炎症反応を引き起こします。
  • これらの炎症細胞は、損傷した細胞の除去や修復に必要な物質の放出など、組織修復に重要な役割を果たします。
  • しかし、炎症が慢性化すると、これらの炎症細胞が持続的に組織内に浸潤し、炎症性サイトカインの産生を促します。

B:炎症性サイトカインの産生増加と痛覚過敏

  • 炎症細胞から放出される炎症性サイトカイン(TNF-α、IL-1βなど)は、痛みを伝える神経を刺激し、痛覚過敏を引き起こします。
  • これらのサイトカインは、神経の興奮性を高め、通常では痛みを感じない程度の刺激でも痛みを感じるようにします。
  • また、炎症性サイトカインは、血管新生を促進し、痛みを伝える神経線維の成長を促す可能性もあります。

相互関係のメカニズム

  • Aの炎症細胞の浸潤は、Bの炎症性サイトカインの産生を促します。
  • Bの炎症性サイトカインは、Aの炎症細胞の浸潤をさらに促進し、炎症反応を悪化させる可能性があります。
  • つまり、炎症細胞と炎症性サイトカインは、互いに作用し合い、慢性的な炎症と痛覚過敏の悪循環を生み出すのです。

 

4.よくある質問

4-1.Q:慢性疼痛の病態で浮腫みが生じていることが多い理由

異常な血管新生の発生と血管透過性の亢進:損傷組織では、炎症性サイトカインやVEGFなどの影響で、異常な血管新生が起こります。これらの新生血管は、正常な血管に比べて構造が脆弱で、血管壁の透過性が亢進しています。これにより、血管から組織間質への液体成分の漏出が増加し、浮腫(むくみ)が生じます。

Q:慢性疼痛での痛覚過敏にある理由

神経変化のメカニズムが影響しています。以下で説明いたします。

末梢神経の過敏化と神経線維の増加:組織が損傷すると、炎症性サイトカインや成長因子が放出されます。これらの物質は、末梢神経を刺激し、神経の興奮性を高めます。慢性的な刺激は、神経線維の増殖を引き起こし、痛みを伝える神経線維(C線維、Aδ線維)が増加します。これにより、痛みの感受性が高まり、痛覚過敏が生じます。

神経伝達物質の放出増加:損傷した組織では、サブスタンスPやCGRPなどの神経伝達物質の放出が増加します。これらの物質は、痛みの信号を脊髄や脳に伝え、痛みを増強します。特にCGRPは、血管拡張作用も持ち、血管新生にも関与します。

血管周囲の神経線維分布と痛覚過敏:新生血管の周囲には、痛みを伝える神経線維が豊富に分布しています。血管透過性の亢進による浮腫は、これらの神経線維を刺激し、痛覚過敏を引き起こします。また、血管から漏出した炎症性物質も、神経線維を刺激し、痛みを増強します。

4-2.Q:損傷組織でこれらの変化が起こる理由

組織修復の過程で炎症反応が起こり、その炎症反応が慢性化すると、神経や血管に悪影響を及ぼし、慢性痛を引き起こす可能性があります。

組織修復の過程:

損傷した組織は、修復過程で炎症反応(1.)を起こします。この炎症反応は、組織修復に必要な細胞や物質を損傷部位に集めるために起こります。

しかし、この炎症反応が慢性化(2.)すると、神経や血管に悪影響を及ぼし、慢性痛を引き起こす可能性があります。

1. 修復過程における炎症反応

組織が損傷すると、体は修復プロセス(生体防御機構)を開始します。このプロセスにおいて、炎症反応は不可欠な役割を果たします。炎症反応は、損傷組織の清掃と修復に必要な細胞や物質を集める

損傷の認識と信号伝達

損傷した組織は、細胞の破片や損傷関連分子パターン(DAMPs)などを放出して、脊髄を通して脳に痛み(危険信号)を伝えます。

これらの信号は、免疫細胞(マクロファージ、好中球など)を活性化し、炎症性サイトカイン(TNF-α、IL-1βなど)の放出を促します。

免疫細胞の動員

炎症性サイトカインは、血管透過性を高め、白血球を損傷部位に動員します。

動員された免疫細胞は、損傷組織の清掃、病原体の除去、および修復に必要な成長因子の放出を行います。

組織修復の開始:

成長因子(VEGF、TGF-βなど)は、血管新生、線維芽細胞の増殖、および細胞外マトリックスの合成を促進し、組織修復を開始します。

2. 炎症反応が慢性化する理由

通常、炎症反応は組織修復の完了とともに収束しますが、以下のような要因により慢性化することがあります。下記の要因が複合的に作用することで、炎症反応が慢性化し、組織の破壊と修復が繰り返される状態となります。その結果、慢性的な痛み、機能障害、および組織変性が引き起こされます。

原因物質の持続

損傷の原因となった物質(異物、化学物質、自己免疫反応など)が持続する場合、炎症反応が継続されます。例えば、関節リウマチなどの自己免疫疾患では、自己抗体が持続的に関節組織を攻撃し、慢性的な炎症を引き起こします。

修復過程の異常:

組織修復が正常に進行しない場合、炎症反応が慢性化することがあります。例えば、過剰な線維化により瘢痕組織が形成されると、周囲の組織に炎症が波及し、慢性的な痛みや機能障害を引き起こすことがあります。

組織修復の開始:

成長因子(VEGF、TGF-βなど)は、血管新生、線維芽細胞の増殖、および細胞外マトリックスの合成を促進し、組織修復を開始します。

神経系の過敏化:

慢性的な炎症は、末梢神経を過敏化させ、痛覚過敏を引き起こします。過敏化した神経は、わずかな刺激でも痛みの信号を発生させ、慢性痛の悪循環を生み出します。

血管新生の異常::

慢性的な炎症は、異常な血管新生(モヤモヤ血管)を引き起こします。この異常な血管は、炎症性物質や痛みを伝える物質を放出し、炎症と痛みを増悪させます。

免疫系の異常:

免疫系の制御異常により、炎症反応が過剰に持続することがあります。例えば、特定のサイトカインの過剰産生や、制御性T細胞の機能低下などが関与します。

 

5.まとめ:これらの変化を防ぐことが早期回復の決めて!

以下の方法を組み合わせて、損傷組織における神経変化や血管変化を防ぎ、慢性痛のリスクを減らすことができます。

5-1.初期の適切な治療

損傷後、早期に適切な治療を行うことが重要です。RICE(安静、冷却、圧迫、挙上)などの応急処置や、適切なリハビリテーションを行うことで、慢性化を防ぐことができます。

5-2.冷却療法(アイシング)

冷却は、血管を収縮させ、炎症反応を抑制する効果があります。やり方は、損傷後48時間以内に冷却を行うことで、炎症の拡大を防ぎ、痛みを軽減し組織の回復を早めることができます。注意事項は、冷却は過度に行うと組織損傷を引き起こす可能性があるため、適切な時間と方法で行う必要があります。

5-3.炎症性サイトカインの抑制

非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)などを使用して、炎症性サイトカインの産生を抑制します。

5-4.神経成長因子の抑制

神経成長因子を抑制する薬物を使用する。

5-5.VEGFの抑制

VEGF阻害薬を使用する。

5-6.適切なリハビリテーション

適切なリハビリテーションは、組織の修復を促進し、慢性的な痛みを防ぐことができます。

5-7.生活習慣の改善

バランスの取れた食事、適切な運動、十分な睡眠など、健康的な生活習慣を送ることで、組織の修復を促進し、痛みを軽減することができます。

 

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目次

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  6. 治る早さは、症状レベルによる影響する!整体師がわかりやすく解説

 

監修:冨澤敏夫(柔道整復師・整体師)

慢性痛の湿布 「10秒かかと上げで足裏の痛みが消える!」(KADOKAW)、ペンギン歩きを治せは「しつこい足の痛みは消える!」(現代書林)のどの書籍があります。雑誌の取材などメディアで紹介されています。

日経ヘルス・健康364、わかさ、PHP出版などから取材を受けて、雑誌の1年間の連載も好評でした。

 

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